古典文学Graphics

古事記・日本書紀

フツヌシとタケミカヅチ、オオアナムチに国譲りを迫る。

国譲り

軍隊がぶつかる国譲り。
剣の上にあぐらはかけるか。

 葦原中国の平定のため、フツヌシとタケミカヅチが天降る。アマテラスの孫をその支配者とするためである。二神は逆さに立てた剣の上にあぐらをかき、現支配者であるオオアナムチに国譲りを迫る。日本書紀 巻第二 神代下 第九段 正文小-日本書紀-1-p117

  • オオアナムチはオオクニヌシの別名。この国譲りの場面は、古事記ではオオクニヌシの名で、日本書紀ではオオアナムチの名で語られる。

画像について

 手薄なオオアナムチ軍の前にフツヌシとタケミカヅチの率いる天神軍が現れたところです。武器も鎧も自分たちとは桁違いのその姿に、オオアナムチ軍は早くも総崩れの状態です。その中にあって、さすがにオオアナムチはまったく動じません。広矛と呼ばれる武器を手に、天神軍の前に立ちはだかっています。

 最も高い場所から見下ろしているのがフツヌシです。総司令官といったところでしょうか。下にいるのがタケミカヅチです。この神は、フツヌシが葦原中国の平定に派遣されることを知り、自ら志願した武闘派です。そこであえて最前線に身を置いているというわけです。

こんな風に考えました

剣の上に座るには

 この場面で最も理解しづらいところは、「逆さに立てた剣の上にあぐらをかく」という部分でしょう。いちおう画像化してみましたが、どうも無理があります(図1)。

 では、剣が4本あったらどうでしょうか(図2)。これならどうにか座れそうです。ですが、これでも剣の先に座るというのはたいへん危険です。そこで剣を隙間なくびっしりと並べてみました(図3)。注意深く座れば、けがをせずにすむかもしれません。

 ということは、フツヌシとタケミカヅチは何十本もの剣を抱えて天から降り、それを一本一本地面に刺して、その上にそろそろと乗ってあぐらをかいたのでしょうか。これはかなり不自然です。

 多くの剣があったということは、それを使う多くの兵士がいたということです。つまり、フツヌシとタケミカヅチは軍隊を連れてきたのです。別の者を使いに出すという描写があることから、二神だけということはあり得ません。

 地上に着いた兵士達は地に剣を突き立てます。防御のためかもしれませんし、威嚇のためかもしれません。しかし、フツヌシとタケミカヅチは直接その上に座る必要はありません。輿の上に乗って兵士達に担ぎ上げさせればいいのです。

図1
図1 1本の剣の上にあぐらをかく
図2
図2 4本の剣の上にあぐらをかく
図3
図3 たくさんの剣の上にあぐらをかく

オオアナムチにも軍隊が

荒れた国を平定するために

 二神が軍を率いてきたのは、オオアナムチが軍隊を持っていたからだと考えられます。葦原中国はオオアナムチが平定した後でさえ、蛍火のように妖しく光る神や、五月頃の蠅のようにうるさく騒ぐ邪神がいた小-日本書紀-1-p111のです。さらに平定以前の様子はもとより荒れた国であり、磐石や草木に至るまですべて強暴であった小-日本書紀-1-p103といった有様です。オオアナムチはそのような国をまとめ上げたのですから、自身の力だけでなく、多くの兵の力を借りたと考えてもよさそうです。

コトシロヌシのいない理由

 天神軍が降りてきた時、オオアナムチの軍勢は万全ではありませんでした。息子であるコトシロヌシがその場を離れていたからです。古事記では鳥の狩猟、魚の漁をしに、御大の岬に行って、まだ帰って来ていません小-古事記-p108とタケミカヅチに答えています。自らの兵力が少ないことをわざわざ敵に告げたりはしないでしょうから、兵を引き連れて平定に出ているコトシロヌシのいない理由をこのように偽ったと考えてもおかしくはありません。