ヤマタノオロチ その二
怪物ではない。
ヤマタノオロチは盗賊団。
ヤマタノオロチは一つの体に八つの頭を持ち、八つの丘と八つの谷をはいわたる。目は赤いホオズキのようで、背には松柏(まつかえ)が生えていた。
アシナズチとテナズチの娘を求めて年に一度やってくるその敵を退治するため、スサノオはクシイナダヒメを櫛に変えて髪にさし、八つの桶に酒を用意させる。それを飲んだヤマタノオロチは酔って眠り、スサノオによって体をずたずたに切り刻まれる。日本書紀 巻第一 神代上 第八段 正文小-日本書紀-1-p91
- 松柏:松や柏(かやのき)。柏はヒノキ科の総称。
画像について
ヤマタノオロチを実在したものとして考えてみました。
八つの頭を持つ巨大な蛇というのはあまりにも非現実的なので、八つの丘と八つの谷を縄張りとする盗賊団としました。名付けてヤマタノオロチ盗賊団です。
松柏と呼ばれる首領とその八人の息子達から成っていて、その内の七人すべてがアシナズチとテナズチの娘を妻としています。今回は中央にいる白い服を着た八男の妻にするため、クシイナダヒメのもとに向かいます。
こんな風に考えました
ヤマタノオロチ盗賊団
巨大すぎるヤマタノオロチ
八つの丘と八つの谷をはいわたる。とてつもない大きさです。一匹の生物としては巨大すぎます。その体を維持する食料を得るのにも苦労するはずです。少し体を動かすだけで、娘一人の犠牲では済まない甚大な被害が出ることでしょう。実在したと考えるのには無理があります。
しかし、八つの丘と八つの谷は、ヤマタノオロチが何かしらの影響を与えた範囲だとしたらどうでしょうか。例えば、食料を求めて動き回った範囲だとか、その姿が目撃された範囲だとか。これなら巨大な体である必要はありません。
一つの体に八つの頭という姿に関しても、一つのものから八つの物が生まれている、一つのものが八つのものを束ねている、と考えてみてはどうでしょうか。一人の親から八人の子供、一人の首長に八人の部下など、これなら現実的です。
スサノオの作戦
ヤマタノオロチを退治する際にスサノオがとった行動についてみてみましょう。スサノオはヤマタノオロチを眠らせるために、アシナズチ達に酒を用意させました。しかし、蛇は酒を飲むのでしょうか。飲んだとしても、酔って眠ってしまうのでしょうか。蛇を酔わすために酒を用いるという作戦は、確実性が低いと思わざるを得ません。それでも、スサノオはその作戦を実行しました。成功する確証があったのです。なぜなら、ヤマタノオロチが好んで酒を飲み酔って眠ってしまう生き物であることを知っていたからです。
酒を好み、一つのものに統率され、広い範囲を自由に移動できるもの。その姿としては、蛇よりも人間のほうがふさわしいようです。
盗賊団の名はヤマタノオロチ。その首領には息子が八人いて、付近の八つの丘と八つの谷を縄張りとしていた。このような姿を考えました。
婿としてのヤマタノオロチ
アシナズチ達のもとに毎年行っていたのは、息子達がみな一歳違いだったからです。息子の一人が結婚適齢期になるたびに、同じく適齢期を迎えるアシナズチ達の娘を奪いに行っていたのです。
むりやり奪って行ったのでしょうか。そうではなさそうです。相手が人間であれば、それを防ぐ方法がいくつもあったはずです。アシナズチ達はそれをしませんでした。毎年やって来るヤマタノオロチを恐れてはいなかったのです。自分の娘の夫として認めていたということになるでしょう。アシナズチ達が泣いていたのは、娘を嫁にやるのが寂しかったからです。
ヤマタノオロチをずたずたにする
婿として認めていたのであれば、アシナズチ達はスサノオに彼らを殺させるわけがありません。しかし、彼らは他でも色々と問題を起こしていて、そのままにしておく事ができなかったのでしょう。それがヤマタノオロチを盗賊団と考えた理由です。アシナズチ達は、彼らが盗賊団として活動できなくなる最低限の痛手を与えてくれるようスサノオに頼んだのです。
その方法は、首領の松柏を殺すことです。酒の桶は八つ用意されました。盗賊団は全部で九人、一つ足りません。が、八つの桶の酒は息子達に飲ませて眠らせるためのものです。抵抗されて仕方なく殺してしまう事態を避けるためでしょう。首領の松柏を眠らせる必要はありません。スサノオは正々堂々と戦ったのです。
自分達の父親であり首領でもある松柏を失った息子達は、盗賊団としてはもう成り立ちません。これから後はそれぞれ別々に生きていくことでしょう。スサノオによってずたずたにされたのは、盗賊団としての結束です。
クシイナダヒメと櫛
ここまでヤマタノオロチが実在できるように考えてきました。しかし、この場面にはどうしても解決できない問題があります。スサノオはクシイナダヒメを櫛に変えて髪にさしているのです。人を櫛に変えることは当然できません。
戦いの前に髪に櫛をさす理由は何でしょうか。いろいろと説があるようですが、ここでは身を守るおまじないのようなものと考えておきます。スサノオはクシイナダヒメの櫛を借りて、髪にさしたのでしょう。
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