物語前夜
天武朝のかぐや姫。
月の世界で罪を犯したかぐや姫は、地上に下ろされる。そして、竹取の翁に確実に見つけられるように、竹の中に入れられることとなる。
画像について
一番手前にいる手錠をされた女性がかぐや姫です。もうすぐ竹の中に入れられます。地上では知られていない高度な技術で体を三寸(約9cm)にまで小さくされるのです。しかし、それは長期的なものではありません。三か月ほどでもとの大きさに戻るはずです。
かぐや姫の隣にいるのが、のちに月の王となる人物です。彼女の身を案じているようです。
かぐや姫を竹の中に入れるのも、その竹の根元を照らすのも、すべては竹取の翁に見つけさせるためにすることです。「みやつこまろ」のページで考えたように、竹取の翁はかぐや姫の地上での親として選ばれた人物なのです。
このような場面は物語の中にはありません。この次の日、竹取の翁は光る竹を見つけることになります。世にも不思議な物語の始まりです。
こんな風に考えました
物語の時代
今は昔
これは、いつの時代の物語なのでしょうか。物語が書かれた時代ではありません。いつの時代を舞台にしているのかということです。
この物語のような奇想天外な話を、作者が自分の生きている時代を舞台にするとは思えません。あまりにも非現実的だと受け取られてしまう可能性があるからです。そこで、物語の冒頭にあるように、「今は昔」と昔話として語られるわけです。
200年前の物語
物語の書かれた年代は、はっきりとはわからないようですが、およそ9世紀末から10世紀初頭といわれています小-竹取物語-p86。舞台となった時代に関しては、解説小-竹取物語-p19では、天武・持統・文武朝の時代となっています。物語が9世紀末に書かれたとすれば、200年程前のこととなります。現代に置き換えれば、江戸時代後期ということになるでしょう。これならば、この物語のような不思議なことが起こっても自然に受け入れられそうです。
上記の時代とする根拠の一つとして、かぐや姫に求婚する五人のうちの三人が、その時代に実在した人物の名がほぼそのまま付けられているということになると思われます。ただ、このままだとだいぶ長い期間となりますので、ここではもう少しせばめてみたいと思います。
続日本紀の文武天皇の巻である巻第二と巻第三に、先ほどの三人のうちの二人の死亡記事があります。天武天皇の即位からでも30年ほどが経過しています。かぐや姫に結婚を迫る人物としては、少々高齢すぎるのではないでしょうか。文武朝を舞台とするのは無理がありそうです。
持統天皇は女性です。かぐや姫に求婚するということはあり得ません。
物語の舞台は天武朝ということになりそうです。
一度も宮仕えをすることのなかったかぐや姫ですが、もししていたら、図のような服装をしていたかもしれません。
天の異変と壬申の乱
日本書紀によれば、天武天皇は天文に詳しかったということです。自ら天の異変を見て占ったり、占星台を建てたりしたことが記されています。
また、天武天皇の巻には天文に関する記事が多いように思われます。綿のようなものが降ってきたり小-日本書紀-3-p383、夜にもかかわらず東の空が明るかったり小-日本書紀-3-p401、星が異常な動きをしたり小-日本書紀-3-p413、p441、中には未確認飛行物体について書かれたと思われるような記事もあります小-日本書紀-3-p421。月からやってきたかぐや姫と結びつけて考えたくなってしまいます。
また、かぐや姫の月への帰郷を阻止しようと、竹取の翁の求めに応じて、帝は二千人の兵を翁の家に派遣します。それだけの兵の準備があったのは、あまり遠くない過去に、大きな争い、つまり壬申の乱があったことを思わせます。
683年の狩り
物語には、帝が狩りを装ってかぐや姫のもとを訪れる場面があります。かぐや姫はそのあと帝と文を交わし合い、三年後に月へと帰っていくのです。
天武12年にも狩りの記事があります。そしてその三年後、天皇は崩御するのです。物語で天皇の崩御は語られませんが、不死の薬など、何の役に立とうぞ
小-竹取物語-p77という歌を詠み、かぐや姫の残した不死の薬を焼いてしまいます。なにか関係がありそうな、そんな気がしてきます。
天武12年は西暦では683年です。もし、その時の狩りが物語の狩りにあたるのであれば、かぐや姫が月に帰っていったのは、その三年後の686年8月15日ということになります。
物語の中に描かれる事物が、全て天武朝のものとは限りません。作者が、当時の読者にわかりやすいように、あえてその時代のものに置き換えたのか、あるいは、正確な時代考証をするだけの資料がなかったのか、もしかすると、そもそも時代考証など念頭になかったのか、そのようなことも考えられます。
竹取物語と今昔物語集
竹取物語の成立に関しては、今昔物語集にも目を向けたほうがいいでしょう。そこには、竹取物語とほぼ同じ内容の話が載っているのです。それについては、「竹取物語の原型」のページで考えています。