古典文学Graphics

古事記・日本書紀

混沌から天地が分かれる。

天地開闢

神世七代、国造りに向けて動き出す。

 陰陽が分かれぬままの混沌の中から、澄んで明るい気は天となり、重く濁った気は地となった。やがて陽の気のみで三神が生まれ、陰陽の気が交わって四組の神が生まれた。神世七代(かむよななよ)である。日本書紀 巻第一 神代上 第一段 正文小-日本書紀-1-p19

画像について

 混沌が天地に分かれ始めたところです。天は地よりも早く固まると記されていますが、それですらまだまだ先のことになりそうです。

 やがて、最初の神であるクニノトコタチが生まれることでしょう。

こんな風に考えました

神世七代の国造り

神世七代について

 神世七代の名を登場した順に記します。

(1)クニノトコタチ

(2)クニノサツチ

(3)トヨクムヌ

(4)ウヒジニ・スヒジニ

(5)オオトノジ・オオトマベ

(6)オモダル・カシコネ

(7)イザナキ・イザナミ

 以下、神名ではわかりにくいので、基本的に番号で表すことにします。

 (1)から(3)は陽の気のみで生まれたので男神のみ、(4)から(7)は陰陽の気が交わって生まれたので男神と女神が揃っています。男女一対の神々をそれぞれ一代と数えて、全部で七代となります。

神世七代の選抜

 一書には、神世七代と同じ時期に生まれた他の神々の名が記されています。その中にはイザナキの親も出てきます。神世七代の他にも神はいたのです。どうやら、この世に現れた最初から七組目までを単純に数え上げただけではなさそうです。神世七代は、幾柱の神々の中から選ばれた存在であるということです。

 では、それに選ばれた理由とは、いったいどのようなものだったのでしょうか。

イザナキとイザナミの物語

 (7)のイザナキとイザナミは、オノゴロ島を創り、洲を産み、神々を産みます。二神はさらにアマテラスを産み、その孫のニニギはやがて地上の支配者となって、代々の天皇の祖となります。古事記と日本書紀で語られる多くのことは、イザナキとイザナミにつながっているのです。古事記と日本書紀はイザナキとイザナミの物語といってもいいでしょう。

 (1)から(6)がイザナキ・イザナミと共に数え上げられている以上、二神と無関係ではないはずです。むしろ、二神との関係が深いからこそ、神世七代に選ばれたと考えられます。

 では、具体的に何をしたのか。イザナキとイザナミ以外は明記されていません。しかし、どこかにそれを知る手がかりがあるはずです。

名は体をあらわすか

 イザナキとイザナミの名の「イザ」は、「誘(いざな)」の意味だといいます小-日本書紀-1-p23 解説。オノゴロ島に降りた二神は、互いに声を掛け合って結婚しているので、まさにその名と行動とが一致しているといえるでしょう。しかし、それがわかるのは、本文に書かれているからです。本文を読んだ後で、初めて名前の由来がわかるのです。もし本文が無かったら、その名だけからイザナキとイザナミの行動の全てを知ることは不可能です。

 神世七代の他の神々の名もいろいろな解釈ができそうです。それによって、その行動の一部はわかるかもしれません。が、それでその神の行った重要なことはわかるでしょうか。イザナキ・イザナミの「イザ」からでは、国造りを行ったことまではわかりません。名前をたよりにするのは諦めたほうがよさそうです。

他にも国がある

 改めて、イザナキとイザナミが何をしたのかを考えてみます。二神は数々の洲や神を産みました。男神と女神であったからこそそれができたのです。神世七代の中で男女揃っているのは、イザナキとイザナミの他には(4)から(6)です。その神々は、イザナキ・イザナミと同じように、国や神を産むことができたのではないでしょうか。

 イザナキとイザナミが整えた豊葦原千五百秋瑞穂(とよあしはらのちいほあきのみずほ)の国に(4)から(6)が関わったという記述はありません。しかし、他にも国は存在しています。イザナキとイザナミ自身の他に、その子孫たちにも関係する国々です。それは、黄泉、根国、海郷の三つです。

 黄泉は、火の神カグツチを産んだことによって焼け死んだイザナミが行くことになる国で、その後を追ってイザナキも訪れることになります。そして、そこから帰ってきたイザナキがみそぎをした際に、アマテラスやスサノオが産まれます。

 根国はスサノオが住むことになる国です。古事記では根之堅州国(ねのかたすくに)と呼ばれ、オオクニヌシが数々の試練を乗り越える場所として描かれています小-古事記-p81~85。オオクニヌシはそのあと国を平定し、アマテラスの孫のニニギに国を譲ることになります。

 海郷は海神のいる国で、ニニギの子のヒコホホデミ(古事記ではホオリ)が訪れます。そこで出会ったトヨタマヒメとの間に産まれた子の子、つまり孫が、のちの神武天皇となるのです。

 これらの国について、その成り立ちは書かれていません。そこにいる神々についても同様です。しかし、イザナキとイザナミが瑞穂の国を整えたのと同じように、これらの国々を整えた誰かがいたはずです。おそらく、それこそが(4)から(6)の神々に違いありません。その神々は、イザナキ・イザナミのように、洲や神を産んだのです。

 どの神がどの国を造ったのかはわかりません。しかし、それぞれの国に古事記や日本書紀のような書物があったとしたら、そこにはその神々の活躍が描かれていることでしょう。(4)から(6)が神世七代に選ばれたのは、主役ともいえるイザナキ・イザナミに深い関わりのある国々を造ったからなのです。

国造りを命じた神

クニノトコタチは別格

 (1)から(3)の神々について考えてみます。

 (1)のクニノトコタチは、一番最初に生まれた神であり、さらに一書によれば、イザナキの四代前の祖先とされているので、神世七代に入るのは当然です。

 問題は、(2)と(3)です。(4)から(7)のように国を造ったのでしょうか。古事記と日本書紀には、前述の国々以外にも、現実に存在する国、もしくはかつて存在した国が登場します。しかし、洲や神を産むためには、(4)から(7)のように男女一対である必要がありそうです。男神だけである(2)(3)にはおそらく無理でしょう。神世七代以外にも神はいます。それらの国々は、神世七代としては記されていない神々が造ったと考えた方がよさそうです。

 どこかに(2)と(3)について書かれてはいないでしょうか。日本書紀は様々な疑問を解決する手がかりをきちんと残してくれています。見落としていることがあるに違いありません。

国造りを命じたのは誰か

 そういえば、イザナキとイザナミが瑞穂の国を整えたのは、天神(あまつかみ)に命じられたからでした小-日本書紀-1-p29。イザナキとイザナミはこのあと地上に降りるので、ここでいう天神とは高天原(たかまのはら)にいる神ということでしょう。その神が(4)から(6)ということもあり得ます。しかし、イザナキとイザナミよりも先に生まれたその神々は、それぞれの国を造るためにすでに地上に降りてしまっている可能性があります。さらに、(4)から(6)は、男女一対という特徴から、(2)(3)よりもイザナキ・イザナミに近い存在だと思われます。つまり、天神から命じられる立場にあるということです。(2)(3)のうちのどちらか一方が、イザナキとイザナミに、もしかすると(4)から(6)にも、国造りを命じたと考えられます。

 具体的に(2)(3)のどちらがその役割であったかはまだわかりませんが、七代のうち六代の役割が判明したことになります。役割が不明なのは、あと一柱です。手がかりを探しましょう。

占いをする神

 イザナキとイザナミの国造りの途中に、少々気になる記述がありました。国造りがうまくいかず、天神に相談に行く場面です小-日本書紀-1-p30。そこで天神は占いをするのです。占いとは神の考えを聞く行為です。イザナキとイザナミに質問された神が、神の意見を聞いているのです。自分に尋ねて自分が答えると考えると非常に不思議な行動です。しかし、別の神に答えを求めているのだとすれば、それは自然なことです。

 七代の中でまだ役割のわかっていない神が一柱いました。占いをした神に答えた神こそがその最後の一柱に違いありません。もし、先に生まれた方が地位が高いとすれば、その神が(2)のクニノサツチで、占いをした神が(3)のトヨクムヌということになります。

神々による国造り

 神世七代の全ての神々の役割がわかりました。(1)以外は、すべて国造りに関わっているようです。そこで、国造りという視点で組織図にまとめてみました()。

 (1)のクニノトコタチは記念すべき最初の神で、その筆頭として数えられるのは当然ですが、国造りに関わった確証がないので、つながりの外に配置しています。

 (2)のクニノサツチは、世界中の国造りを統轄する立場にある神です。

 (3)のトヨクムヌは、クニノサツチの指示を受けて、世界をいくつかに分けた一地方に属する国々を担当します。イザナキ・イザナミを中心に考えられた神世七代には登場しませんが、トヨクムヌの他にも同じ地位の神々がいて、国造りを指示したことでしょう。

 (4)のウヒジニ・スヒジニ、(5)のオオトノジ・オオトマベ、(6)のオモダル・カシコネ、そしてイザナキ・イザナミは、トヨクムヌの指示を受けて、それぞれ一つずつ国を担当します。では(4)から(6)をトヨクムヌの下としていますが、トヨクムヌと同じ地位の他の神々の下にいるということも考えられます。

 一番下のシマとは、実際に国の内部を整える役目の者たちです。そのことについては、「国生み以前」のページで考えています。

図
 神世七代の組織図